まぶたは開いたのに、なぜか物が見えにくい.....?
眼瞼下垂の手術後、視界が良好になった一方で、稀に「物が二重に見える」「ピントが合いにくい」という った症状を経験される方がいらっしゃいます。 ご不安に思われるかもしれませんが、これは体の正常な回復過程で起こりうる、予測された現象の一つです。この資料では、その理由を詳しく解説します。
あなたの体は、無意識に「頑張って」まぶたを上げていた
眼瞼下垂は、まぶたを上げる「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」という筋肉の力が弱まることで起こります。しかし、私たちの体は非常によくできており、無意識のうちに別の方法で視野を確保しようとします。
それが、まぶたの裏側にある「ミュラー筋」という小さな筋肉を、交感神経(体を緊張させ、興奮させる神経)を使って常に収縮させる、という方法です。
重度の眼瞼下垂の方は、常にこの「交感神経のスイッチ」をオンにして、ミュラー筋を緊張させ続けることで、必死にまぶたを支えています。
正常な状態と重度眼瞼下垂の筋肉と神経の状態
| 状態 | 正常な状態 | 重度眼瞼下垂 |
|---|---|---|
| 挙筋腱膜の状態 | 機能している | 機能不全 |
| ミュラー筋 (補助の筋肉) |
リラックスしている | 常に過緊張している |
| 交感神経の状態 | 穏やか | 常に興奮 | 体への影響 | - | 肩こり・頭痛など |
| 眼圧 | - | 抑制的 |
手術後に起こる「交感神経のリセット」とは?
挙筋腱膜の正常化
眼瞼下垂の手術で、メインの筋肉である眼瞼挙筋の働きが正常に機能し始める、普通に自分の意思で眼を開けることが出来るようになります。
ミュラー筋を使う必要はなくなる
メインの挙筋腱膜が正常に機能するようになったので、今まで無理して、交感神経を介して使用していたミュラー筋を使う必要がなくなります。
交感神経がリセットされる
今までは補助的な筋肉・ミュラー筋を交感神経を経由して無理に動かしていましたが、もうミュラー筋を使う必要がなくなり、交感神経シグナルは正常な状態に戻ります(リセットされる)
手術前後の眼圧と交感神経の変化
交感神経は房水の産生と排出を制御することで眼圧に影響を与えます。重度の眼瞼下垂の患者さんは術後、交感神経にシグナルが変化するため眼圧が変わる可能性があります。
眼圧と房水
房水(ぼうすい)とは、目の中(前房・後房)を満たす透明な液体で、角膜や水晶体に栄養を供給し老廃物を運び出す作用があり、房水の産生と排出は眼圧に影響します。
自律神経による房水・眼圧の制御
房水の産生・排出は自律神経の交感神経と副交感神経によって制御されていています、さらに交感神経にはα作動とβ作動があります。
- 副交感神経:房水流出促進により眼圧を低下
- α作動交感神経:眼圧を低下
- β作動交感神経:眼圧を上昇
手術前の眼圧の状態
眼瞼下垂の術後に影響を与えるのはα作動交感神経です。
- 重度眼瞼下患者さん、挙筋腱膜が傷んでいて眼が開かない
- 補助的な筋肉のミュラー筋を使用してなんとか眼を開けようとする
- ミュラー筋の収縮には実はα作動交感神経を使用している
- 眼瞼下垂の患者さんは常にミュラー筋を使用、イコール常にα作動交感神経が興奮
- α作動交感神経興奮 ⇒ 眼圧が相対的に低くなる
手術後の眼圧状態
- 眼を開ける主な筋肉・眼瞼挙筋が機能するようになる
- ミュラー筋を使う必要がなくなる
- 眼圧を下げていた、α作動交感神経の異常な興奮がなくなる
- 眼圧が上がる
術後の乱視の悪化について
極稀に眼瞼下垂術後に物が二重に見えるなど乱視の悪化の症状が出る場合があります、その機序について説明します。
眼球は、水風船やソフトボールのように、中身(お水)の圧力によって形が保たれている柔らかい球体です。眼圧が変化すると眼球の形が微妙に変化します。
手術前の眼圧の状態
まぶたを開けるためにα作動交感神経が常に興奮していると、眼球の中の圧力(眼圧)は、実は少し低めに抑えられています。ボールの空気が少し抜けて、わずかに柔らかくなっているような状態です。
術後の眼圧の変化
術直後より眼瞼挙筋が機能するようになり、ミュラー筋を使用する必要がなくなり、α作動交感神経の緊張が少なくなり、眼圧がその人本来の正常な圧力(張り)に戻ります。パンパンに空気が入ったボールのように、内側から外側へ押す力が少し強くなります。
手術後の眼圧の状態
手術でまぶたが楽になると、α作動交感神経の興奮が収まり、眼圧がその人本来の正常な圧力(張り)に戻ります。パンパンに空気が入ったボールのように、内側から外側へ押す力が少し強くなります。
角膜のカーブの変化
「内側からの圧力」の変化によって、目の表面にある透明なレンズ(角膜)のカーブが、眼圧の変化でミクロ単位で変化します。これが【物が二重に見える】「乱視が悪化した」という現象の正体です。
乱視悪化のその後時間の経過について
眼瞼下垂手術後に一時的に乱視が悪化(変化)し、その後時間の経過とともに改善・安定するという臨床経過は、複数の研究で報告されていています。多くの研究では、術後1ヶ月〜3ヶ月で最も変化が大きく、その後6ヶ月〜12ヶ月かけて術前の状態に近づく、あるいは安定するというパターンが確認されている。
- 約30%の患者において、一過性の角膜形状変化が報告されています。
- 術後の乱視変化は、多くの症例で術後1〜3ヶ月をピークに発生し、その後6〜12ヶ月かけて自然に軽減・安定すると言われています。
- 特に、術前に「直乱視」を持っていた患者さんでは、術後に一時的に乱視が増強するが、その後軽減するパターンが多かった
- 術後の乱視変化は多くの場合一時的であり、最終的な眼鏡処方は術後数ヶ月待つことが勧められて負います。
- 「戻らない」ケースもあります、全員が完全に元通りになるわけではなく、約10〜20%程度の患者では、変化した乱視がそのまま定着することもある(特に術前の乱視が強かった場合や、ドライアイを併発している場合)。
まとめ
- 緑内障や乱視のある方は術後に症状が変化する可能性があります。
- 6〜12ヶ月かけて徐々にもとに戻ることが多いです。
- 乱視悪化の症状のピークは術後1〜3ヶ月です
- 約10〜20%程度の患者では、変化した乱視がそのまま定着します
Q & A
手術後に物が見えにくくなることがあるのはなぜですか?
手術によってまぶたが上がるようになると、それまで無意識に行っていた「交感神経による無理なサポート」が不要になるためです。この神経の状態の変化が眼圧(目の硬さ)に影響を与え、結果として眼球の形がわずかに変わることで、一時的に物が見えにくくなることがあります
なぜ手術の後に「眼圧」が上がるのですか?
手術前、重度の眼瞼下垂の方は「ミュラー筋」という筋肉をα作動交感神経で常に緊張させてまぶたを支えています。この神経の興奮は眼圧を低く抑える働きがありますが、手術でまぶたが楽に開くようになると、この異常な興奮が収まります。その結果、眼圧がその人本来の正常な圧力に戻る(=相対的に上がる)のです。
乱視が悪化する仕組みを教えてください。
眼圧が変化すると、眼球の内側から外側へ押す力が変わります。眼球は柔らかい球体であるため、この圧力の変化によって目の表面にある「角膜」のカーブがミクロ単位で変化します。これが、物が二重に見えたり乱視が悪化したように感じたりする正体です。
手術後の乱視の症状は、いつ頃落ち着きますか?
多くの研究では、術後1ヶ月〜3ヶ月に変化が最も大きく現れ、その後6ヶ月〜12ヶ月かけて自然に軽減・安定していくという傾向が確認されています。そのため、新しい眼鏡を作る場合は、術後数ヶ月待ってから処方を受けることが推奨されています。
乱視の症状は全員必ず元に戻りますか?
残念ながら全員ではありません。多くの場合は一時的な変化で自然に安定しますが、約10〜20%の患者さんでは、変化した乱視がそのまま定着することもあります。特に術前から乱視が強かった方や、ドライアイを併発している場合は注意が必要です
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